重箱

好きなものをつついていく

小糸侑と光(3)

仲谷鳰やがて君になる

主人公の小糸侑と光の演出を掘り返すシリーズ3回目、5巻と6巻分。

1,2巻分

小糸侑と光(1) - 重箱

3,4巻分

小糸侑と光(2) - 重箱

 

自分の気持ちを認めた侑は、燈子を変えるために動き出す。怜ちゃんが言っていたように、ひたすら悩んだ後に腹をくくった侑は強い。2巻表紙で燈子に手を引かれていたのと対照的に、5巻では侑が燈子をリードするような場面が増えていく。

 

23話
  • 5巻の口絵にもなっている表紙、燈子の手を引いて螺旋階段の上方へ導く侑。くっきりとした影が落ちるほど全身を強い光に照らされる侑の足取りは力強いもので、階段の上方は光で霞むほど明るい。

 

24話
  • サブタイトル「灯台」、アニメ版最終回の水族館デート回。上部から光が降り注ぐ海中トンネルを、燈子の手を引いて歩く侑。モデルになってるマクセルアクアパーク品川に先日実際行ってきたけど、ここの光は人工的な明かりではなく日光を取り入れたものだった。

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  • 「先輩 そろそろ乗り換えですよ」 開いた電車のドアから差し込む光

 
26話
  • 覚悟完了した侑に光と陰の演出がなくなる一方で、新しい脚本をぶつけられ今までの自分を否定されたように感じている燈子の表情がここから28話までどんどん硬くなっていく。顔に貼られるトーンの面積が広い。

 

27話
  • 恋を失って涙を流す朱里を、以前の侑なら眩しく見つめたかもしれない。だが今の侑は朱里の気持ちを正しく自分のものとして理解し、共感するまでに変化している。

 

28話
  • 表紙、燈子と並んで座り、頭上の星を指差す侑
  • 物陰に連れ込んでキスを迫る燈子に対して、侑が初めて拒否を示す。2人だけの閉じた気持ちのいい関係を壊してでも、皆の燈子自身への気持ちを認めて欲しいと願う侑がまるで祈るような姿で燈子の手を握るとき、その周りには星のような光が散らばる。

 

28話直後の単行本おまけカット
  • 27話表紙で燈子が行く手を阻むように立ちふさがっていた扉が開いている。その向こうは明るい。

 

5巻表紙
  • 陽の光が降り注ぐ海中トンネルの中で、燈子を導くように手を差し伸べる侑
やがて君になる(5) (電撃コミックスNEXT)

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6巻の光と陰の演出は、「好き」を自分のものにしているかどうかというテーマではない。ここのキーワードはおそらく「特別」だ。

1巻の最後で侑は自分が燈子にとっての「特別」だということを理解し、2巻の最後で燈子の「特別」でいるために、自分は変わらず「特別」を持たないと嘘をついた。3巻でついに生まれてしまった「特別」な気持ちを容易には認められずにいたが、しかし4巻の最後では自分の「特別」になった燈子のために動くことを決意する。そして5巻での行いは、燈子の「特別」であることを自ら手放すことだったと侑が気づくのは、劇が終わった後のことだった。

 

29話
  • 「先輩は一人じゃないですし 先輩は大丈夫」燈子の肩に侑が両手を置く姿の周りに光。このポーズが後篇の看護師と少女の重要なやりとりと同じなのはきっと意図したものだろう。
  • 明るいステージへ駆け出す燈子を見送る侑は、舞台袖の陰の中にいる。

 

31話
  • 表紙、6巻口絵にもなっている、白い光の中で社交ダンスを踊る侑と燈子。侑がリード側で、笑顔で踊る燈子を支えている。

  • 「終わっても 終わらないんだね」と吹っ切れたように微笑む燈子を見る侑の全身に暗めのトーン
  • 「『私だけが あなたの特別で いられたのに』」少女の恋人の言葉を舞台袖の陰で聞いていた侑。そのセリフを口に出す姿は一面陰で覆われているが、首を振ってその陰を振り払う。

 

32話
  • 表紙、灯火を掲げてその光が照らす方へ足を踏み出す燈子。侑の姿はない。

 

34話
  • 表紙、水の中にいる侑が明るい水面に手を伸ばす姿
  • 先輩はこれからも変わっていくだろう、と思いながら侑が見つめる燈子に日差しの効果。燈子がいつか自分を置いて行ってしまうことへの恐れか。

 

6巻表紙

  • 体育館ステージの上に1人立ち、明るい光に照らされる燈子。裏表紙で対照的に舞台袖の暗がりにいる侑は、なかば燈子に背を向けながらも寂しそうな複雑な表情で燈子を見ている。その側には小道具の松葉杖が立てかけられている。
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5巻24話の「灯台」っていうサブタイトルのことを初めのうちはまだスッキリと解釈しきれていなかった。単純に考えれば「燈」は「灯」の旧字体なので、イコール燈子とも考えられるけど、絶対にそれだけではない。

この水族館デートが2人にとって重要な出来事であることは間違いない。燈子にとっては劇が終わった後の、何も見えない未来への不安を軽減してくれるものであったし(侑とこれから何をしたいかにまで目を向けられるようにさえなった)、侑にとっては言葉には出さないまでも、自分がこれから先輩を変えて行くんだという宣言をしたような行動だった。

灯台の役割はその光に向かって進むものではなくて、その位置や方角から進むべき針路を見定める基準となるものだ。2人だけの優しさと心地よさを与え合うだけの安全な港を離れて、これから広い海へと漕ぎ出す転機になる回にふさわしいタイトルだと思う。

ここからは予想というか願望だけど、今後迷いが生じた時の心の拠り所としてこの回のことを思い出すような場面があればいいなと思っている。

 

6巻32話の「舞台の下で」はタイトルだけ見たらちょっと構えてしまった。舞台の下って普通は奈落と呼ばれていて、元々地獄の名前なのを深くて暗い場所というところからそう呼ばれるようになった。でも内容からすると希望が持てるような話になっている。

舞台が進行しているその下、観客席では奈良先生が燈子を見つけた。舞台の進行により、燈子の心の奥底に変化が生まれた。そういう意味だろうか。

 

侑と光の掘り返しは今回ちょっと自信ないところも多いのでこれは違うだろとかこれもだろとかあったら教えてもらえたら嬉しいです。コメントでもツイッターでも。

 

小糸侑と光(2)

仲谷鳰やがて君になる』の主人公、小糸侑と光の描写についてほじくり返す記事。今回は3,4巻分。

1,2巻ぶんはこちら

小糸侑と光(1) - 重箱

 

13話
  • 朱里と朱里の好きな先輩の相合傘を見送る侑の頭上部に影
  • 燈子の登場に驚く侑のコマ、鼻の上に陰があることから分かるように光源が下方にあり、周りのトーン処理と相まってまるで侑自身が光っているように見える
  • 「その嬉しいって」「どういう意味?」で燈子の拒絶の気配を感じ取った侑の顔に、それまで掛かっていなかった陰が出現
 
15話
  • 自分は人を好きにならないという自覚のある槇と侑。そういう自分を肯定して他人の恋愛を見ることを楽しむ槇は開いた窓から身を乗り出して陽を浴び、侑は閉じた窓の手前で影の中にいる

 

16話
  • 侑が見つめるリレーを走る燈子、走り終わった燈子の後ろ姿に日差しの効果

ここではっきりと侑の心境の変化が描かれる

  • 「侑 どうかした?」「…… んっと」「ううん? どうもしないよ」 ※1話のリフレイン。友人との距離はもはや離れておらず、3人並んで日向に座っている。
  • 燈子にキスをする直前、侑の頭上から差しこむ日差しのような効果 →ここを超えたらだめだ、と自制する侑
  • 「心臓の音がする …わたしのじゃないな 先輩の音だ だってこれじゃ 速すぎるから」侑のモノローグに寄り添うように、1話で多用されていたものと同じ光の効果

 

16話直後の単行本おまけカット
  • 雨は上がって虹が出ているのに、それに背を向けそっぽを向いて傘を差したままの侑

 

3巻表紙
  • 13話最終コマを俯瞰で撮ったようなカットだが、本編とは逆に燈子が目を閉じ侑が空を見上げている。雨が上がって晴れ間が広がり始めていることは、裏表紙に描かれた水たまりの反射でわかる仕掛け
やがて君になる(3) (電撃コミックスNEXT)

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17話
  • 劇の脚本を読んだ燈子の心境を推し量りながら、夕焼け空を見上げる侑
 
18話
  • サブタイトル「昼の星」表紙、短冊で口元を隠して座る侑、その後ろに何枚かの短冊がかけられた笹、さらに後ろに枠取りされて塗りつぶされたような黒い背景。その中に浮かび上がるいくつかの星。昼の星は目には見えない。以前はあれほど手を届かせたかった星がすぐ後ろにあるのに、口元を隠した侑は星を見ようとしない。

 

19話
  • 表紙、陽を全身に浴びる燈子を薄布で隔てられた日陰から横目で窺う侑の姿
 
22話
  • 表紙、燈子と背中合わせに座る侑。差し込む光に片目を開いている
  • ベッドシーン(by寿美菜子@やが君ラジオ)、侑を自分の影に入れるように覆いかぶさる燈子
  • 「ばか」「先輩のばーか」西日を正面から浴びて叫ぶ侑の言葉に隠されたモノローグ
  • 侑の部屋のカーテン、これも星空?
  • こよみに電話する侑のスマホからこぼれる光の粒
  • 脚本、そして燈子を変えたいと決意する侑は燈子からもらったプラネタリウムの光をのぞき込む。星の光はもはや天井や壁ではなく、侑自身に映って光る。

 

22話直後の単行本おまけカット
  • 麦わら帽子を脱いで、強い日差しに正面から向き合う侑

 

4巻表紙
  • ……は佐伯先輩のターンなので特になし。燈子の花火持つ位置危なくない?ジャージ溶けそう
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太字は例によってわたしがグッときた部分。16話後と22話後のおまけカットの対比に気付いた時は震えが走った。それに16話のモノローグのあのエフェクト、この記事のために読み返すまで気づかなかったぞ!!!興奮がおさまらない!!

16話の「号砲は聞こえない」は3巻最後の話で、やが君は毎巻最後の話に山場をが来るように作ってあるそうだけどそれにしたってこの話は凄い。

侑と沙弥香の友情の成立。侑の心境の変化が1話の反復を用いた形ではっきりと読者に示される。しかしそれを認めてしまったら、今危うい形で成り立っている二人の関係が崩れてしまうことも描かれる。

負けたことにも気づかない=ゴールの号砲すら聞こえないほど燈子に惹きつけられてしまった侑は、同時に自分の心臓がスタートの号砲を鳴らしたことを認められない。表紙で耳をふさぐ侑の手に後ろからまた手を重ねてふさぐ人は本編ではあんなに無邪気にキスをねだってくるのに。

それからこの最後のモノローグ、原作では

「…わたしのじゃないな 先輩の音だ」だったのが

「わたしのじゃない。先輩の音だ」

と言い切る形になったのが、侑が自分の気持ちを押し込めてる感出ててアニメスタッフ最高に分かってる! フゥー!

 

フゥーといえば寿さん高田さんがラジオでよく言うエロ峠だけどこの回が素晴らしいのは最高にエロいからというのもあるね。見ては消し見ては消ししてたアニメ版、まんまとこの回から保存しておくようになった。

 

小糸侑と光(1)

 仲谷鳰やがて君になる

が面白すぎるのでつついていきたい
 
主人公の小糸 侑(こいと ゆう)は人を好きになる気持ちが理解できず、そんな自分を変えたいと思っている高校一年生。そんな子が美人で黒髪ロン毛文武両道、人当たりが良く美人の先輩、七海 燈子(ななみ とうこ)に初対面で気に入られて2日目でキスされちゃったりとかしてあらあらという始まり方をする恋愛物語だ。これだけ読むとああそういう百合漫画ねみたいな感じなんだけど、この主人公、全然先輩になびかない。繰り返しても顔が良いだけでは小糸侑には届かない。
 
恋ができない小糸さんは、恋愛やその真っ只中にいる人を眩しいものとして捉えている。手の届かない星のようなものだと考えている。暗喩を多用するこの漫画の中でもトップクラスに多いのがこの光の描写だ。クライマックスを迎えつつある『やがて君になる』の、次号のサブタイトルは「光の中にいる」。
 

 
表紙で眩しそうな表情をしてるのが侑。この絵とタイトルがどれほどの衝撃なのかを味わい尽くすために、これまで小糸侑と光がどんな描かれ方をしていたかをほじくり返したい。とりあえず2巻まで。
 
1話
  • 「少女漫画やラブソングのことばは キラキラして眩しくて(中略)わたしのものになってはくれない」
  • 燈子に告白する男子生徒がキラキラ光って見える描写
  • 物陰(文字通りの日影)からそれを見ていた侑は燈子の呼びかけで陽が当たる場所に飛び出す
  • 自分に告白した男子からのライン画面が光る描写
  • 日が差す所で友人2人と一緒に昼食を摂っていたはずが、自分だけ距離があり影にいる心理描写
  • 返事をし兼ねている告白相手のライン画面が、消した後もキラキラと光る
  • 「侑 どうかした?」「…… んっと」「ううん? どうもしないよ」先を行く友人2人が日向にいるが侑だけは日影にいる ※16話に同じセリフのシーンあり
  • 告白を断る相手の台詞周りに光の効果
  • 「だって私君のこと好きになりそう」と言う燈子の台詞に光の効果
 
3話
  • 侑に手を握られて赤面する燈子に光の効果
  • 特別を知っている燈子に置いていかれて暗い場所にいる心理描写
  • 「……また まぶしい思いをするだけなのに」「なんで 構わないなんて言っちゃったんだろう」侑を好きでいることを許された燈子の顔に日が差す、次Pにも光の効果
 
4話
  • 励まされて微笑む朱里に星のような効果
  • 燈子が侑に、旅行のお土産として家庭用プラネタリウムを渡す(cf.1話サブタイトル「わたしは星に届かない」)
  • プラネタリウムを持ってきた理由を言い淀む燈子を眩しげに見やる侑
  • 大好きだよと照れ笑いする燈子に日が差し、星のような効果
  • 天井に映したプラネタリウムの星に無邪気に手を届かせる怜ちゃん(姉)に対して侑は手を伸ばしながら「わたしもいつか…… 届いたりするのかな」
 
5話
  • 燈子が自分を特別だと思う理由に触れて、ここで初めて侑の側にも星のような効果
 
1巻表紙
  • 光源から考えれば陰になるはずの侑の顔は燈子からの反射のように同じ明度になっている
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6話
  • キスしたいと迫る燈子に眩しさを感じる侑
  • 槇くんから「小糸さんもちゃんと七海先輩のこと好きなんだね」と指摘されて、「べつに 普通だよ…」と答える侑の全身が木漏れ日でまだらに照らされる描写
 
9話
  • 自分が変われない(恋愛感情がわからない)ことをやだなと思う侑の全身が逆光で陰になっている
  • プラネタリウムを天井に映して見上げ、光を消す侑の描写にインサートされる燈子の後ろ姿
 
10話
  • 燈子の拒絶と同じタイミングでやってくる電車に日光が遮られる
 
2巻表紙
  • 燈子に手を引かれて木陰から日向へと出て行く侑

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太字はわたしが特にグッときたところ。
特に6話の、本人が思いもよらなかった「七海先輩のことが特別」だという気持ちを第三者から指摘される場面で、侑は「べつに 普通だよ…」と口では否定する。否定するけれども顔は少し赤らみ、口元は書類で隠している。明らかに真実は別のところにありますよと言わんばかりの描写で、さらっと読んでても理解はできるけれど、この場面で光の当たり具合すら使って心境を表してることにわたしが気づいたのは何回か読み返した後だった。考えてみれば1Pブチ抜き大ゴマの全身像なんだから超重要なコマであることは当たり前なんだよ!ここでこの漫画に落ちた気がする。
 
こうしてまとめてみると1話の光の描写しつこいくらいやってるな。作者の仲谷さんと編集のクスノキさんはわかりにくいことを自覚してこの漫画を作り上げてるそうだけど、誰もが初見の1話ではこのくらいしないと読者には届かないのかもしれない。
 
3巻以降の続きは今日明日中にあげる。27日の最新話前までにはまとめ終わりたい。
 
→あげました